わたしの小さな窓

風がカーテンを揺らす

円い死と棘のある死

小さな犬が

小さな胸を上下させて荒い呼吸を繰り返している

 

命が刻々と削られる

この犬は死んでしまうのだ

私より先に死んでしまうのだ

ついこの間まで仔犬だったのに

こんなにみんなに愛されているのに

 

去年母が亡くなった

コロナ禍で面会も出来ずにいた

最後会った時

ただ苦し気な呼吸に肩を揺らしていた

目を開けることも

会話することも叶わなかった

会ったその日の夜

身内一人もいない中で母は息を引き取った

 

母が死ぬことは

ずっと前から解っていた

高齢でその肉体が生きることを支えきれなくなっていた

母も自分が死ぬことを解かっていたし

皆も遠くない日に母は死ぬと解っていた

誰より年かさの者が先に逝く

これが一番自然で幸せな終わり

 

それから1年

私は母のために泣いたことは無い

母は十分に生きたし

私にやり残したことは無い

遠からず私も母の入った墓に入る

湿って暗い墓の中で

先住の骨と共に土に還っていくだけ

命が無くなった肉体に意識はない

思いや心が漂うこともない

生き残った者が

記憶の中で生かし続けるだけ

 

命を全うするとは

どういうことだろう

命が途切れそうな

小さな犬の体を撫ぜながら考える

私の命を削って

その犬にあげることが出来たら

どんなにいいだろう

この小さい犬の死の鋭い棘を

私は受け止められず恐れ慌てふためいている

 

きっと命は不公平に出来ているのだろう

幸せとか満足とかそんなものが無くても

あらゆる形で死は訪れる

あるがままの事実に

ただ対峙するしかない

死の棘がどんなに深く心に突き刺さろうと

私に出来るのは

あなたを愛していたよと

そう伝えるしかない

それが伝わっても伝わらなくても

あなたをとても愛していたよと

そう伝えるしかない

きっと

それしか出来ない